魚は切り身のまま泳いでる!?子供を馬鹿にした「都市伝説」の正体
都市伝説。どこの誰が遭遇したのかはっきりしないが見事な物語として成立し、人々に口承されている現代の民話。
都市伝説生き物のようなもの。時代の流れに沿って「ビデオ」が「DVD」になったり「ポケベル」が「メール」になったり物語の細部が変わり、それに対応できない物語はどんどん消えていく。
そんな熾烈な?都市伝説界で今も根強く伝わっているのが「子供をバカにした」系都市伝説だ。
今回はその物語の一つについての検証し思っていることを書いていこうと思う。
【都市伝説】
魚は「切り身のまま」泳いでいると思っている子供が増えている
【内容】
最近の子供はスーパーで切り身の魚しか見たことが無いから、切り身の姿そのままで泳いでいると思っている。
※「幼稚園で魚の絵を描かせたら切り身を書いた子がいた(全員が書いた)」等様々なバリエーションあり。
【考察】
今でも割とよく聞く都市伝説である。
では、いつ頃から存在するのか?早速グーグルのアーカイブ機能を使って「切り身 泳いでいる」で検索をしてみたところ、インターネット上での初出は2000年の9月ごろ。
天理大教授石飛氏のサイト内の職業としてのではない学問という記事内で「切り身のまま泳ぐ魚」についての言及が見られる。一部引用。
・卒論指導の際、学生が「最近の子どもは実体験が少ないので、魚が海で切り身で泳いでいると思っている」と言う - 「あんたそんな変な子ども知り合いなん?」「いえ、どっかで読みました」
・・・
これは、あくまで教授が「学生から聞いた」という形であり、その学生も「どこかで読んだ」という事だから「切り身で泳ぐ魚」の話は少なくとも20年以上前からあったに違い無い。
さらに2chベースでは2009年の時点で
75:名無しさん@九周年:2009/05/03(日) 08:44:53 id:vDx8dmK00
30年前、自分が小学生の時に全く同じ話があった。
話はあった、けれど本気でそう思ってる(思っていた)
という人間には出会ったことがないし、出会ったという話も
聞いたことがない。
ジョークや都市伝説の類だな
という話題が出ている事から考えると約30年前以上前から口承されている可能性も否定できない。とにかくだいぶ古い話なのであろう。
ただそれでも、2009年5月2日の毎日新聞で
取材ノートから:農と生をまた考える /山形
魚の切り身がそのまま海で泳いでいると思っている小学生が
近ごろ多いらしい。そんな私も、そばが「そばの実」からできていると、
最近まで知らなかった。それだけ現代人は食の過程に無関心ということか
「近頃の話」として書かれていて、この時空の歪みっぷりがいかにも都市伝説的で面白い。時期も事実関係もとても怪しく思える。
しかし、この話が全くの嘘なのかというとそれも違う。
この都市伝説について調べている中で何件か「切り身のままで泳いでいると思っている子供」に関する具体的な証言もみつけた。
中でも具体的なのは横浜で行われた「平成21年度第一回横浜市食育推進計画検討委員会」の中である委員がこう発言している。
岩瀬委員 私どもは市場で魚の卸を行っています。小学生が見学に来て、市場の中を案内し、生 けすを紹介します。最初驚いたのは、マグロは切り身のままで泳いでいるという認識を 持ったお子さんがいたことで、魚を実際に見た事がなく、調理されたものしかない。
この岩瀬委員というのは発言から察するに、漁業の第一線に関わっている方だろう。そんな方が実体験として語っているのだから、これを無視するわけにはわけにはいかない。
現実に「魚が切り身のまま泳いでいる」と思っている子供は存在するのだ。
ただ、正確に統計をとったわけでは無いが、普通に考えれば「魚」の情報を完全に遮断したまま小学生になれるとは考えにくいので、こういう子がいたとしてもごくごく少数に思える。
おそらく、「子どもの食に対する無関心さ」への警告と「今時の子供はそんな事もしらない」という揶揄が、事実を誇張・一般化させ、「切り身のままで泳ぐ魚」という都市伝説が生まれたのだろう。
訴訟社会は怖いぞ!でおなじみの「電子レンジとペット」の話と同じように。
※なんだこの本!
で、ここから私見。
僕はこの都市伝説が大っ嫌いだ。
この都市伝説は要するに「今時の若いもんは・・・、俺らの若い頃は・・・」という美化された昔話そのもので聞いていて不愉快極まりない。「ゆとり世代」と同質の悪質なレッテル貼りだ。子供を馬鹿にするのもいい加減にしろ!
馬鹿にされるべきは、ちょっと調べればわかるような大昔の与太話を前提に教育を語ろうとしたり、今の子どもの不憫さを嘆く大人の方だろ!
「いい年こいてエクセルもまともに使えない上司がいる」って事の方がこっちとしては信じがたいし大問題だわ!
そもそも、幼稚園〜小学校低学年位の子供が、「魚は切り身で泳いでいる」と考えたって不思議も何でも無いし、それは揶揄されるべき事でもなければ、誰かが非難される事でも無い。「サンタクロースはいるかいないのか」問題と同様、微笑ましいエピソードの一つだ。
むしろ、そこからどう教えていくかが教育じゃ無いのか?
にもかかわらず鬼の首を取ったように「教育がヤバい!」とか「最近の子供は無知」とか煽る意味がわからない。
この他にも「カブトムシの電池が切れた!」とか「教育的」都市伝説は存在するけれどそのどれもが「昔は良かった・・・」レベルの話にすぎない。
僕も、もう壮年にさしかかろうとしているけれど、こういう都市伝説を教訓的に口走る馬鹿な大人にはなりたく無いし、多くの若者にもそういう大人になって欲しく無い、と思う。