その無能上司は天使かもしれない

部下が3人集まれば上司の悪口が始まる。

僕は今まで幾度どなく上司が変わり、また会社も数回変えてきたけれど、これだけは変わらない。

 

いわく、

「ルーティンの一環で怒鳴る男」「感情フラワーロック女」「ゴマの擦りすぎですり鉢まで粉にした男」「自分語りお化け」「妖怪・水掛け論」「大日本帝国陸軍の傀儡」・・・等々、悪口のバリエーションの豊かさは、さすが日本語!といったところで、その応酬は苛烈を極める。

 

「上司にヘイトが集中することで、かえって部内がまとまってんな、これ」

と思ってしまう時もあるくらいだ。

 

もちろん、僕もその悪口にはノる。

良い悪いはともかくとして、それが社会人の流儀だと思うから。

 

とはいえ、そんな僕にも、「無能は無能なんだろうけれどあえて悪口を言いづらいタイプの無能上司」というものがいる。

それが「消極的無能上司」だ。

消極的無能上司とは、「現状維持」「八方美人」「責任回避」など、要は「新しいことなんてやりたく無い。保身重視で部下任せ」をモットーとする上司のことを指す。

逆にこれが、「精神論のお化け」「勢い重視でノープラン」「罵声=叱咤激励」と言ったような、「積極的にこちらに害を及ぼしてくるタイプの無能上司」であれば、むしろ僕は同僚の先陣を切って朗々と陰口を叩きまくる自信がある。

けれども、「消極無能上司」にだけは悪口を言う気になれないのだ。

 

今の会社に転職して一年が過ぎようとしているが、僕の直属の上司がまさにこの「消極的無能上司」の典型で、毎回飲み会では同僚から「新しいことに取り組む気がない」「指示もヴィジョンも無い」「どこでも良い顔をしようとする」等など、散々な言われようである。

 

ただ、そんな罵声の中、僕は思うのだ。

 

「ああ、今の上司は天使かもしれない」と。

 

僕は幾多の上司と会社を経験する中で、怒鳴ることをマネジメントと思っている積極的無能上司から、逆に、明確なヴィジョンと管理能力を持ち、部下に高い能力を要求する超有能上司まで多くの上司と出会ってきた。

そして、その度に心身をすり減らしてきた。

そんな僕からすれば「求心力皆無、部下野放し」な今の消極的無能上司は一種の癒しと化している。

 

僕の会社は中小企業で上司の変更など滅多になく、もう10年以上もこの体制が続いている。

 

そもそもみんな、わかっているのか?

 

ヴィジョンが明確で、進取の精神に富んでいて、強い意志のある上司の下で働くことがどれだけ大変か。

今まで以上の高い能力と仕事量が求められることは確実で、反面、自由が制限される覚悟はあるのか?

 

第一、今の上司の首をすげ替えたところで超有能上司が来るとは限らない。むしろ積極的無能上司が現れてさらに現場を混乱と憤怒の渦に叩き込む可能性の方がずっと高い様に思える。

 

だから僕は、罵声の渦巻く飲み会の席の中、ただ1人愛想笑いを浮かべながら消極的無能上司が平穏無事に定年まで過ごせることを願っているのである。

  

仕事は楽しいかね?

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