なぜ佐川急便は「身代わり出頭」をさせてしまうのか?

佐川急便社員が駐車違反で捕まった際、全くの他人を警察に突き出していた、いわゆる「身代わり出頭」事件だが、思いの外規模が大きかったらしく、つい最近もまた家宅捜索がはいった。

www.asahi.com

身代わり出頭はイメージ的に考えてもかなり悪質な行為に間違いはなく「なにをやっているんだ!」と世間の風当たりは強い。しかも、「あの」佐川急便なのだからなおさらだ。

しかし、車好きの人や営業でよく車を使う職業ドライバーは、また別の疑問を持ったことだろう。

 

そもそも、「駐車違反」って必ず出頭しなきゃいけないの?

 

僕は4年ぐらい1日の大半を車で過ごす職業ドライバーやっていて、もちろん駐車違反も何回もしたけれど一回も「出頭」なんてしたことがない。

駐禁を切られたら、後日罰金納付書が届くので郵便局かどこかで罰金を支払えばそれでおしまい。免許の点数が減ることもない。

これは悪いことでもなんでもなく、現行の制度上では正しいことなのだ。

むしろ正直に出頭をしてしまうと、時間は取られるし「免許の点数は減る」し良いことなんて一つもない。

 

こんなこと営業ドライバーにとっては常識だ。

でもだからこそ「営業ドライバー中の営業ドライバー」であるところの佐川の社員が何故わざわざ出頭をするのか、僕にはさっぱりわからなかった。

 

一瞬「駐禁を切られると評価に響くのかな?」とも思ったが、駐車違反のお知らせが本人に届いている時点で、当然車の所有者である佐川急便はその事実を知っているはず。にもかかわらず「身代わり出頭」なんてさらにリスクの高い真似をする必要はない。

「免許の点数が少ない」といった私的な事情であるならば、そもそも出頭をしなければいいだけだ。

 

これには何か理由があるなと僕は思った。

そうして、調べているうちにちょっと意外な事実がわかった。

「使用制限命令」の存在である。

下記サイトから一部引用する。

免許停止ならぬ「使用制限命令」って何?放置駐車違反にはご注意! | 【車査定のマニア】

一定期間内に放置駐車違反を複数回行うと、車両の使用制限命令が下されます。使用制限命令とはそのままの意味で、違反を行った車両を一時的に使えなくなる処分を言います。

何回放置駐車違反をしたら使用制限命令を受ける?その期間は?

使用制限命令を受ける事になる放置駐車違反の回数は、使用制限命令の前歴によって異なります。また、使用制限命令の処分期間も「前歴」「一定期間内に放置駐車違反による納付命令を受けた回数」によって異なります。

使用制限命令の前歴は、放置駐車違反をした日を基準日として、過去1年以内の使用制限命令を受けた回数です。また、一定期間内の放置駐車違反による納付命令の回数も放置駐車した日を基準日として、過去6か月以内に納付命令を受けた回数です。

放置駐車違反をした回数ではない点に注意が必要です。つまり、放置駐車違反をして警察に出頭し、違反点数が加点され反則金を納めた場合は回数に数えません。

つまり 短期間に駐車違反を繰り返してしまうと一定期間当該車両の利用が禁止されてしまうのだ。僕はこの制度自体初耳だったが、さらにミソなのは太字にした部分。
この使用制限命令の根拠となる駐車違反回数だが「出頭した場合」はカウントされないらしい。

 

なるほど、たぶんこれだ。佐川の社員が出頭してしまう理由は。

商売道具の車が使用禁止となるとこれは出頭しないわけにはいかない。ましてや免許の点数が危ない場合は「身代わり出頭」も十分考えられる。

この使用制限命令の出される基準は「半年に3回以上の駐車違反」とのことで配送ルートによっては簡単に基準を満たしてしまうし、もちろん一般ドライバーの我々にとっても他人事ではない。

 

じゃあどうすればいいのか?

過激な人は「そもそも、業務で生じた罰金なのだから会社が負担しろ!」とかいうけれど、それはつまり佐川が「業務遂行のためなら違法行為も辞さない」と宣言するに等しくいくら名高いブラック企業とはいえ無理だろう。

次に考えられるのは「予備のトラックを沢山用意する」という方法。使用制限命令は「当該車両」にのみ有効なので、ドライバーを別のトラックに載せ替えれば業務に支障はないはずだ。

ただ、これもやはり「法の抜け穴を探す」といった類のもので駐車違反対策として声高に宣言できるものでもないだろう。

 

もっとも現実的なのは駐車違反よけの「横乗り(配達中車内にいる人)」を雇うことかもしれないが、それにしたって、営業ドライバーを倍にしてコスト面で大丈夫なのか?そもそも、トラック免許を持った人間をそんなに多くかき集められるのか?など問題は山積だ

 

どちらにせよ、この件で佐川急便だけを責める気にはなれないし、責めたって仕方がない。日本の道路事情が、お客様のニーズがそうさせてしまっている側面もあるのだから。

いったい、他の運送各社はどんな対策を取っているのだろう。