「ゲームてんかん」ってなんだ?東洋経済の危うげなゲーム批判記事について。
ファミコン発売の当初から「ゲーム害悪論」はなかなか消えない。
ただ単に「ゲームは適切な時間でやろうね!」というだけの話なのに、過剰にゲームに恐怖心を持った輩が、社会不安やら道徳やら医学?やらを絡めてゲーム害悪論を広めようとするから毎回ロクでもない事になるのである。
「ゲーム脳の恐怖」事件以降、そういった無理筋なゲーム害悪論は息を潜めていた様だが、つい先日、天下の東洋経済オンラインで次の様な記事を読んでしまった。
久場川先生という児童精神医療に50年近く関わってきた医学博士の方が書かれた記事の様だが全体的に怪しい、というか危なげな雰囲気が漂っている。
今日はこの記事について「感想」を書く日記としたい。
1、患者続出!?悪魔のアプリ「ポケモンGO」
久場川先生はのっけから飛ばしてくる
ポケモンGOすごすぎるだろ!たった4日でプレイヤーの精神まで蝕んでくるって一体どんな悪魔アプリだよ!
というか、熱中してわずか4日で「ううう、もうポケモンGOが面白すぎて何も手につかない。病院へ行こう!」とか「うちの子がポケモンGO!を手放さない・・・。病院へ行こう!」とか思っちゃう人が50人もいたというのが驚きである。
あの、それはゲーム依存症じゃなくてもっと別の精神病なんじゃ無いですかね?
「ゲーム依存症恐怖症」みたいな。
まあ、いいやいいや!50年近く久場川こども発達クリニックを営んでいる、先生が言う事なんだ本当なんでしょう。
で、その患者で特に酷かったのは元々ゲーム依存症があった16歳の少年だそうで彼は、
路上を歩いてポケモンを捕まえるポケモンGOに熱中するあまり、路上で成人男性と衝突。殴打されケガをしてしまいました。
本人は①自分の身を顧みることができなかった②ポケモンを捕まえることのみ考えていた③対戦に対する興味④課金する誘惑――の4点を反省しています。今はポケモンGOのプレーを中止しています。
とのこと。「少年を殴った成人男性の方が精神的にやばい奴なのでは?」という思いは、まあいったん置いておくとして、そもそもこれ「実際に街にでてポケモンを探す」というポケモンGOのゲーム性の問題じゃないのか?
それを「ゲーム依存症」としてカテゴライズするのはちょっと強引すぎると思う。
しかし、反省点の「対戦に対する興味」ってなんだ?何を反省する気だ?
なんとも、謎多き事件である。
2、「ゲーム普及で少年犯罪が深刻化!」っていつの時代の話だよ・・・
ここまでで導入部。いよいよ本題「ゲーム依存症の恐怖」にはいる。
ただはじめの方は「ゲームのせいでキレやすくなる子供が〜」とか「バカになるー」とかゆとり世代なら数百回は聞いたり読んだ事のある様な意見が、何のソースも無しに列挙されているだけなのであんまり読む価値はなし。
「それってただの感想ですよね?」的な。
ただ、
青少年による凶悪犯行は確かに昔もありましたが、レアケースとみられていました。今はどうでしょうか。行き過ぎた暴力、暴行による子ども同士の傷害事件は後をたたず、陰惨な殺人事件も起こっています。
という文言は見逃せない。え?今時まだそんな事言ってんの?この2016年に。散々論破し尽くされた話だよ?それ。
今更だけど、一応触れておくと平成28年度の警察白書によると刑法少年犯のここ10年の推移はこれ。
男女ともに人口比で犯罪者は減ってますよね?
じゃあ次は凶悪犯罪に限定してみよう。
警察庁安全保安局少年課「少年非行情勢」より抜粋。
やっぱり減ってんだよ。良くて平成22年以降は横ばいという感じ。
少なくとも「ゲーム依存症」との因果関係はこれらの表からは読み取れない。
なのに東洋経済オンライン上で「少年犯罪の凶悪化!」なんて普通に恥ずかしいと思う。
この段階でこの記事に関する信憑性なんて0になったに等しい。
ほんと、何考えてんだろ。
え?テレビゲーム誕生以前の少年凶悪犯罪の件数?
超多いよ。
言わせんなよ。
3、ゲームをしすぎると「てんかん」になっちゃうぞ!
さて、ついに記事は最終章。正直、ここまではその辺の老人のうわ言とさほど変わらない話が続いてきたが、ようやくここで医学博士の本領発揮。
ということで「ゲームてんかん」という新しい病気を持ち出してくる。
ゲーム依存が厄介なのは、光の刺激により脳波にてんかんのような乱れが生じやすくなることです。ゲーム依存症の子どもたちの中には、「ゲームてんかん」とでも呼ぶべき(私が命名しました)症例が増えてきています。
(中略)
個人差はありますが、ゲーム依存で私のクリニックを受診した子どもの脳波を調べたところ、ほぼ全員に、通常では出てこない大きな乱れが計測されました。昔の「テレビの見すぎ」「本の虫」には見られず、ゲーム依存特有のものと推察されます。これが、ゲームを取り上げるとすぐキレるなどの暴力性をつくるのです
(私が命名しました)って・・・。僕は医学に関しては素人である。でも今までの感じを見る限り、どうにもこの「ゲームてんかん」を素直に信用する気にはなれない。
だいたい、脳波の「通常ではでてこない大きな乱れ」ってなんだ?ゲームは本やテレビと違って自分が能動的に関わりそれに対するリアクションを楽しむもんなんだから、脳波が乱れて当然の様に僕には思えてしまう。
案の上、詳細はググっても中々でてこなかった。
が、やっとそれらしい記事は見つけた。
これは末廣医院の末廣先生が、てんかん学会で久場川先生ご本人の発表を聞いたという話。
東洋経済よりやや「ゲームてんかん」について詳しく載っている。
18歳以下の同クリニック受診者のうち、ゲーム・ネット依存/中毒と診断された229人の脳波を解析してわかったものです。このうち脳波異常が見られたのは128人(56%)で高頻度にいわゆる「ゲームてんかん」が認められました。
ん?「脳は異常は56%」だって?
東洋経済の方で久場川先生は
ゲーム依存で私のクリニックを受診した子どもの脳波を調べたところ、ほぼ全員に、通常では出てこない大きな乱れが計測されました。
と言っている。56%は「ほぼ全員」では無いだろう。どうして半年間でここまで数値が食い違ってしまうんだ?
しかも確認できる限りこの「ゲームてんかん」なる病態を主張しているのは久場川先生だけ。
医学を知らない僕から見ると、どう考えても「怪しい話」に思えてしまう。
内科医やてんかんの専門医からも
脳波異常=てんかんではありません。てんかん発作があっててんかんと診断されるべきです。ですので、ゲーム依存の子供に脳波異常があったことを”ゲームてんかん”と呼ぶことにはすごく違和感を感じます。過剰な治療や制限に結びつかないか心配です。
— G.T. MD, PhD (@gobonamassa) 2016年9月7日
ゲームてんかん??これはいけないですね。脳波異常=てんかんでもないし。長時間ぶっつづけでゲームをすることはもちろんお勧めしませんが。 https://t.co/rI1R9S6Xdg
— 小出内科神経科 (@koidenaika) 2016年9月8日
といった懐疑的なツイートが発信されている。
少なくとも、現時点では「ゲームてんかん」はコンセンサスを得た病気とは到底言えず、「ゲーム脳」並みの眉唾と言ってもいいだろう。
結局最後まで、鋭い切り口もデータ的な裏付けも見られなかった本当に酷い記事である。どうした東洋経済。
4、ゲームの依存性なんかとっくにみんな気付いてるよ!
はっきり言って「ゲームには強い依存性がある」。これはもう常識だろう。
そもそも、「多くの人々が熱中するように(ハマるように)」と心血を注いで造られているわけだからそりゃあ当たり前のこと。
特に、スマホゲーに至ってはKPI(目標)に「どれくらいの時間アプリを起動していたか」が含まれる位で元から「依存症になる」ように仕組まれていると言っても良い。
その上、ゲームは読書のように基礎的な素養がいらず、釣りみたいに場所と時間の制約も無い。幼い子供に自由に端末を渡してしまえば移動時間、空き時間をゲームに費やしてしまうことは容易に想像できるし、それは多感な幼少期の教育にとって悪影響を及ぼす可能性も高い。
ゲームを子供に与える際には注意が必要ということはもはや常識だ。
そして、だからこそ冒頭書いた様に、
「ゲームをしても良いけれど両親と約束事を決めて適度にやろうね」
という話になる。
はっきり言って、これが「子供とのゲームとの付き合い方」のすべてである。
これ以上の発展は無い。
もし、そういう「正しい付き合い方」ができないのであれば、それはゲーム依存症以前の問題だ。いじめなのか、コミュニケーション障害なのか、発達障害なのか・・・。
こんなろくでもない記事を書くよりもっと他に掘り下げるべきことがあるだろうに。