「自分の殻を破らなきゃ」症候群で人は死ぬ

「仕事はデキるが語彙力の無い先輩から時々放たれるよくよく考えるとパッション以外何も伝わってこないアドバイスランキング」があるとすれば「自分の殻を破らなきゃ!」は結構上位に入ってくるだろう。社会人数年目の僕も会社こそ何回か変われど、どこでもこの言葉を聞いた事があり、その度にいつも困惑している。

だいたい「自分の殻を破る」ってどういう意味だ?自分の常識外の行動を取ること?隠された本心をさらけ出すこと?腹をくくること?それで何かを成し遂げること?

なんだか一攫千金から猟奇殺人まで一様に適応できそうな便利な言葉だ。

 

しかし、自己評価が低く自意識過剰、真面目系クズの僕にとって、何かうまくいかないコトにぶつかった時きまって頭の中で繰り返されるのもこの「自分の殻を破らなきゃ」という言葉だ。そりゃそうである。大体僕が悪いんだもの。そう思っているんだもの。これほど自分に当てはまるワードは無い。

 

かくして僕は、殻を破った先に広がる新しい世界を目指して、まるで鳥の雛そのもののように内側からメチャクチャに自分の殻を破壊しようとする。

 

で、いつもロクでもないことになる。

 

職場の人や取引先とのコミュニケーションをとるために、いつもは参加しない飲み会にも参加し、必ず最後まで付き合った。今まで絶対にやらない一発芸まで披露した。

仕事でも後ろ向きな行動を禁止し、自分が思ってもいないような前向きな発言や姿勢で臨んだ。周りに対しても、感謝の意思を示しながら働くことを心がけた。

プライベートだって、友達を増やそう、恋人を作ろう、と数年ぶりに合コンをひらいてもらったり、わざわざ「友達の友達」が集まるような会に参加してみたりもした。

 

結果はといえば、深夜までの飲み会続きで体調を崩すし、取引先や職場の人とは、あれだけ恥ずかしさをかなぐり捨てて頑張ったのに、長くいればいるだけ自分との間の溝の深さを思い知らされただけ。

仕事も前向きな行動をしてみたものの自分の能力とかみ合わず、ただの「口だけ野郎」と思われておしまい。交友関係を広げる交流会はいつもの自分じゃないゆえの挙動不審さが出てしまい警戒され、他人同士が友達やいい仲になっていく様をただただ見てるだけ。

 

いいコトなんて一つもなかった。

そして、殻を破るコトに失敗した僕は、それ以前より、さらに臆病に自意識過剰になっていった。今では何が正しいのか、どれが本当の自分なのか、その基準すら危うくなり、もうどうしていいか分からない。

 

いや、殻を「外敵から自分を守ってくれるもの」とするのであれば、むしろ僕はその大切な防壁を壊してしまったのかも知れない。

それは未熟児が保育器を自分で壊してしまうようなものだ。

僕は不安で何もできない人間になってしまった。

 

もしかすると、デキる人はこのエントリを見て「負けんなよ!だからこそ自分の殻を破るんだよ!」という言葉を放つのかも知れない。ほんと便利な言葉だね。

 

多分これ以上殻を破っていったら無防備になった僕はいずれ死ぬ。