社内の冷房戦争が非対称戦争に移行した

「人間が2人いれば戦争が起こる」と言われるくらいだから、どんなレベルの規模の会社であれ対立の火種は常にくすぶっている。チームワークだ!部署間の連携だ!とかいったところで結局、「言った」「言ってない」「やった」「やってない」の不毛な鎖からは逃れられず、いつもどこかかが険悪だし、そこに「我ここにあり!」と高らかに宣言したいタイプの人々も乱入してきて、社内の軋轢は輻輳を起こし、そして全体にことごとく無駄な負荷がかかる。

だれがどういった形で得をするのか全くわからない全員ジリ貧状態だと思うのだけれど、まあそれはそれ。業というか性というか、もう仕方がない。

かくいう僕の勤務先にもやっぱりそういう火種は存在して、毎回この暑い季節になるといつも誰かがイライライしているし、頻繁に席を立ってはあたりを徘徊している。

 

そう、社内の温度管理システムの制御を手中に収めんと、誰もが目を血走らせる冷房戦争。通称「冷戦」だ。

 

事務方女性と営業男性社員がオフィスを一にするという、思いやりのない致命的なオフィスの欠陥と両者の不寛容に端を発するこの問題は弊社以外でも無数に生じていて、すでに日本のビジネスパーソンを苦しめる重大事であるということは論を待たない。

暑い暑い、という(僕を含む)男性社員の声に押されて涼しくなった社内が、ふと気づくとまたじんわり汗ばむ陽気になっている。

おかしいと思って、冷房のリモコンのところに行くと、

悪魔の数字「28」。怪奇現象に近い。

奴らは体温調節機能がぶっ壊れているんじゃないのか。僕らだって鬼じゃないから温度を下げると言ってもせいぜい「26℃」。

これをまた「28℃」に戻すというのだから、それはもう医者にでもかかるべきだ。まあ精神科という可能性も大いにあるだろうけれど。

 

さすがに僕もまた温度を下げる。

しかしまた数十分後には悪魔の数字が表示されている。

延々とこの繰り返し。お互い無言でポチポチやるものだから、部署間の空気は冷え温度は上がる(ややこしい)

 

 

ただ、イライラはするものの我々は「これも夏の風物詩」として半ば諦めながら惰性で女性社員と戦っていたように思う。例えばトムとジェリーのような終わりのない予定調和、戦いの皮をかぶったじゃれあい。そう思っていた。

しかし、女性社員連中はそうは思っていなかったらしい。

 

今日も暑いさなか営業から帰ってきた僕は暑い社内に嫌気がさして、早速冷房のリモコンの元に向かった。目にしたのはいつも通り悪魔の数字「28」。

しかし、温度を下げようとボタンいくら押しても操作を受け付けない!

よく見るとディスプレイ上には

「冷暖選択権無」

の文字が。

あいつら、おそらく冷房のマザーであるところの総務部を抱き込んでエアコンの操作権を一方的に奪いやがったな!

よく見ると女性社員がなんだか涼しげな顔をしている。

 

あーもうほんと、興ざめするわ。なんなの?「俺らは下げる、お前らは上げる」それでいいじゃん?予定調和でもなんでもそれが純粋な闘争のあり方で、平和の均衡を作り出しているってことがわからないの?どうして、幾つになってもそうやって「先生にいいつけてやる!」みたいなことすんの?

これは、俺らとお前らとの戦いだろうが!

そういう真似をするのなら本当に戦争だ!

 

ムキになった僕は数時間のネットサーフィンの末、つい今しがた「冷暖選択権無」の解除方法を習得した。もちろん再設定のしかたも。ほとんど裏コマンドだからすげー苦労したぞ。そして、見つかりにくいながらも業務用エアコンの取説を公開してくれているダイキンさん、ありがとう。

 

早速、僕は明日これを試そうと思う。こうなれば本気だ。

勝ちを確信した後、すぐにひっくり返される驚きと屈辱はどれほどのものか。ましてや、今回は予定調和的な争いではなく、明確な意思を持った戦争で、しかも誰がどうやって何をやってくるかわからない非対称戦だ。

彼女たちは営業、総務、誰の仕業かと疑心暗鬼に陥るだろう。

 

ああ楽しみだ。

まあ弊社の業績にはまったく与しないことなんだけれど。